+Genesis+ ●第0話● 「じゃあ僕先に駅行ってるね。」 そう言って家を出ようとすると、奥から姉が顔を出す。 「ひどいわ、お姉ちゃんをおいていくのね。」 「そんな可愛く言ってもダメ、次ので行かないと僕遅刻なんだから。」 「私は20分あればつくから大丈夫。」 「じゃあ行ってきまーす。」 「無視するんじゃないわよ。」 「だって遅刻しちゃうし。」 「「うん」って言って何でも聞いてくれた頃の勇希をかえして。」 「あの頃の僕だって僕だから、返してといわれても。」 「つれないわね・・・まあいいわ、今日は先行っていいよ。」 「うん、そうさせてもらう。」 こうして僕は家を出た。 …微妙に時間があぶないから急がないと。 僕は奥山勇希、都立高校に通う、ごく普通の学生。 少し普通じゃないのは7年前に異世界に行って、 ちょっとした冒険をしたっていう事くらいかな。 今までならこんな話、誰も信じなかったと思うけど 今のこの状況を見たら嘘じゃないかもって思う人もいるかな。 そう、今空を見上げると、島のようなものが見える。 それは僕らの冒険が終わって数日後からなんだけど。 お父さん達が言うには、始めに見えたのは神界と言われる神様の住む世界らしい。 その後に、魔界やその他のいくつかの世界も見え始めた。 一輝さんが、総ての世界が何らかの影響で 一つになろうとしているのかもしれないって言ってた。 それを初めて聞いたとき、そうなれば鈴華ちゃんにいつでも会えていいね なんて気楽な事を言ってたっけ。 でも、実際のとこ、そんな気楽な話じゃないんだ。 もし世界が一つになって、魔物や魔族がここに来たらどうなるんだろう。 国の偉い人たちは、何が起きてるのか、元に戻すにはどうするか 集まって会議をしてるみたいだけど、 悠さんや久遠さんの話だと止める手段は今のところ無いらしい。 僕にも何か手伝えないか聞いてはみた まあ僕に何かできるわけでもないんだろうと思ってたけど。 案の定、学生なんだから学業に集中しなさいって言われちゃった。 だから今は、皆を応援しつつも、こうして普通の学生生活をおくっているわけで。 はぁ…これからどうなるんだろう。 ●第1話● 小さい頃は、女みたいとか言ってよくいじめられたけど、 さすがに高校までいくとそんなこともなくなった。 でも、裁縫、料理、ファッションといった趣味のせいか 男友達より女の人と話すことが多い。 そんなわけで相変わらず男友達は少ない。 別にそれが嫌なわけじゃないんだけど・・・ やっぱり、男の友情とか憧れるよなぁ。 学校も終わり、駅前のゲームセンターでゲームをしていると乱入がきた。 このゲームは4台1セット、2vs2が基本のゲームだ。 だから仕方ないといえば仕方ないんだけど・・・ 敵は2人、こっちは僕だけ。最初から勝てないとわかってる。 でも諦めない、諦めたら駄目だとお父さんも言ってた(ただのゲームだけど。 「やっぱ勝てないかな。」と終わりかけたその時、隣の席に人が座った。 「真のヒロインは遅れて登場するものよ。」・・・姉だった。 その後、20連勝くらいしたところで、「飽きた」という姉の一言で終了。 拾われた命だったし、文句をいう事もないので2人で帰ることにした。 「それにしても上手くなったわね、ゲーム。」そもそも、始めたきっかけは姉だった。 今となっては、自分でも結構ハマってるけどね。 「まぁ、それでもだお姉さまには勝てないでしょうけど?」 何かムカつく良い方だったけど、事実なので突っ込まないでおく。 「あ、そういえば、また手紙貰ったわよ。はいこれ。」 姉に言われて、姉の学校の文化祭に行って以来、何故か人気者になってしまったようだ。 「もう、あんたが皆に愛想ふりまくからいけないのよ。」 別にそんなつもりはなかったけど、一応礼儀ってやつだと思った。 「僕、付き合う気無いって言ってるのに。」今、恋とかそういうのに興味はない。 「あんたみたいな、可愛い系の年下ってのは母性本能をくすぐるというか・・・。」 「いわゆる1つの萌え要素なわけよ。」姉がまた良くわからないことを言っている。 「お姉ちゃんからも言ってくれれば良いのに、付き合う気無いって。」 「私も言ってるんだけどね、渡すだけでもって頼まれちゃうと断れなくて。」 「ま、こんな魅力的なお姉様と一緒に生活してたら、他の女なんて霞んで――」 「それは無い。」笑顔で、そして全力で否定しておいた。 ●第2話● 「あ、メールだわ・・・香奈の母さんから。」と姉が立ち止まる。 「香奈ちゃんのお母さんから?」 「香奈が学校で怪我したみたい、皆手が放せないから、むかえに行ってあげてって。」 香奈ちゃんは地元の高校に通ってるから駅からそう遠くない。2人でむかえにいくことにした。 「ごめんね、迷惑かけちゃって。」 学校の前まで行くと、香奈ちゃんが門の前で待っていた。 「大丈夫?怪我したって、どれくらいなの?」 「全然平気、ちょっと足ひねっただけで、お父さんもお母さんも心配性なんだから。」 「2人に迷惑かけるくらいなら、メールしなきゃ良かったかな。」 香奈ちゃんは高校に入ってから、ダンス部に入って頑張ってるみたいだ。 「頑張りすぎは身体に良くないわよ」と心配そうな姉。 「うん、わかってる。でも私ももっと皆と踊りたいし。」 昔の香奈ちゃんからは想像も出来ないくらい激しい動きもするらしい。 「でも元気そうで良かったよ、じゃあ帰ろうか。」 そういって歩き出したところで僕は重要なことを思い出した。 「早く帰らないと兄貴の麻婆豆腐講座が始まっちゃう!!」 そう、毎週見ている料理番組の時間が近づいていた。 「別に良いじゃない、あんなの面白くないわよ」と、やや呆れ顔の姉。 「でも先週から楽しみにしてたよね、来週は兄貴の麻婆豆腐だって。」 「ごめん、僕先に帰るから!!」2人にそういって、僕は猛ダッシュで家にむかった。 家の前に着くと、フードをかぶった女性が僕の家を見つめていた。 うちに何か用なのかな・・・?考えてる時間ももったいないので、話しかけることにした。 「あのー、うちに何か用ですか?」と声をかけた瞬間 その女性はとても驚いた様子で、2・3歩後退すると、数秒間沈黙が続いた。 「あの――」と僕がきりだすと同時に、むこうも口を開いた。 「勇希・・・くん?」 驚いた、この女性は僕の名前を知っている・・・。 「何で―――」 ●3話● 「私だよ、覚えてない?」そう言って女性はフードをとり 髪を結んでいたリボンをほどいて、ハチマキのようにまいて見せた。 長く伸びた耳、青のロングヘアー、ハチマキ・・・ 「もしかして、鈴華ちゃん・・・?」そう、その姿は昔一緒に冒険した女の子に似ていた 「よかった、やっぱり覚えててくれたんだね!」と言って抱きついてくる鈴華ちゃん。 「は・・・はなして・・・。」 「あ、ごめん・・・苦しかったかな?」 それもあるけど、そんなことより・・・ 女の人の胸を顔に押し付けられた年頃の男の子の気持ちを考えてください。 「っていうか、鈴華ちゃんて・・・同い年だったよね・・・?」 僕の顔が鈴華ちゃんの胸の高さ・・・ちょっとショックだったりする。 「ほら、私魔族だし、このくらいまでの成長は早いの」察したのか鈴華ちゃんはそう言った。 鈴華ちゃんの話によると、魔族は人間とは成長の仕方が大きく違うらしい。 魔族は、早ければ12〜13年で人間でいう20〜25歳となるみたい。 そしてその後は、ほぼそのままという。 「だから私はちょっと遅いくらいなの」 そんな雑談や昔の話をしていると、姉と香奈ちゃんが帰ってきた。 「あれ、もうテレビ見終わったの?」と姉の一言。 僕は身体が固まってしまう・・・すっかり忘れていたのだ。 ケータイで時計を見る・・・番組終了3分前、もう駄目だ。 「ご、ごめん・・・何か用事があったのかな・・・?」 と、ガックリと肩をおとし、落ち込んでいる僕に少し涙目の鈴華ちゃんが近寄る。 「い、いや・・・良いんだよ、兄貴より鈴華ちゃんのほうが大事だから。」 残念ではあるが、これは間違いなく事実。 「ほんと?ありがと勇希くん!」と言ってまた抱きついてくる。 だからカンベンしてくださいって・・・。 「鈴華って・・・あの鈴華なの?」後ろでキョトンとしていた姉が口を開く。 「そうだよ。」と答えると、姉も香奈ちゃんもパッと明るくなる。 「久しぶりじゃない、ゆっくりしていきなさいよ、あがったあがった!」 と姉が強制的にうちへと引っ張りいれる。 続いて僕も家に入ると、香奈ちゃんのお母さんが出迎えてくれた。 「おかえり。あ、勇希くん、テレビ録画しておいたよ。」 ・・・あなたが神か。 ●4話● 「ところで鈴華、あんた何か用があって来たんじゃないの?」 さんざん喋りまくっておいて今更何を言うかマイシスター。 「あ・・・そうなの、皆に協力してほしいことがあるの・・・。」 鈴華ちゃんが急に真剣な顔になったので、つられて僕らも背筋を伸ばす。 「実はね、この世界に妖怪が来ちゃってるみたいなの。」 「妖怪・・・って、あの!?」そう、僕らが過去に戦った相手。 「お父さんたちに頼まれて退治しに来たんだけど・・・私1人だと心配で。」 「それで僕らのところに?」 「最初は一人で行こうと思ってたの、でも目的地との間にこの家があったから。」 「それでつい眺めてたところに勇希くんが帰ってきたんだね。」 こくりと頷く鈴華ちゃん。「妖怪退治・・・か。」 「もちろん強制はしないよ。あなた達は精霊力も無いし、危険だから。」 確かにその通り、僕らは普通の学生。お父さんたちと違って何の力も無い。でも・・・ 「僕は手伝うよ!」鈴華ちゃん1人を危険なめにあわせたくない、そう思った。 「勇希が一番最初に言うなんて・・・。」少しびっくりした様子の姉が言う。 「僕だっていつまでも泣き虫の臆病者じゃないよ。」 「ま、勇希なら行くと思ったわよ・・・当然私も行くけどね!」 「私だって出来る限り協力するよ。」やっぱり2人とも協力してくれるみたいだ。 「勇希くん・・・美沙ちゃん・・・香奈ちゃん・・・ありがとう!」 「私たちが断るわけないでしょ、友達じゃない!」 「でも学校とか部活もあるから、いつでもっていうわけにはいかないの、ごめんね。」 と香奈ちゃん、それはごもっともです。 「全然大丈夫、少しでも手伝ってくれるだけでうれしいの。」 「久々に一暴れできそうね・・・それで妖怪ってのはいつ、どこに出るの?」 やる気満々な姉。 「基本的には日が沈んでからしか現れないわ。」 それなら学校が終わってからでも大丈夫そうだ。 「場所はここから先にある・・・この高等学校、ここにいるはず。」 「えぇっ!?」と大きな声をあげる香奈ちゃん。 無理もない・・・そこは香奈ちゃんの通う学校なんだから・・・。 ●5話● 次の日の夜、僕らは香奈ちゃんの通う学校まできていた。 もちろん門は閉まっていたので乗り越えてきた。良い子はマネしないでね☆ 姉は前、棒を振り回していたけど、今回はガスガンを持ってきている。 いつの間に使えるようになったんだろう・・・。 香奈ちゃんもピコハンではなく、ナックルのようなものをはめていた。 こっちは・・・さすがにピコハンって年でもないので納得。 この中のどこかに妖怪がいる。そう考えると、無意識のうちにバットをかまえていた。 この懐かしい感じ、ワクワクというよりガクガク。ぶっちゃけ怖いです。 「何?びびってんの?」後ろから姉が馬鹿にしたように言う。 「そりゃ怖いよ。怖くないって方がおかしいんじゃないの?」 妖怪がどうとか以前に、とりあえず夜の学校ってのがまず怖い。 「なんですって・・・」姉が何か言おうとした時、突然大きな音がした。 「な、なに!?」皆で周りを見渡すけど、近くには何も居ない。 「あっち!」鈴華ちゃんが走り出す。 僕たちは慌てて鈴華ちゃんを追う。そうすると体育館についた。 中に入った鈴華ちゃんを追って、僕も中に入った。 「鈴華ちゃん、何かい・・・た?」 そこには自分の何倍もの大きさの蜘蛛のようなものがずっしりとかまえていた。 「こいつは牛鬼・・・いきなり厄介な相手に遭遇したわ・・・。」 一瞬パニックに陥ったけど、何とか自分を落ち着かせる。 とにかく今は戦うだけだ・・・ 「頑張ろうね!」そういって後ろを振り向くと姉と香奈ちゃんが入り口で隠れている。 「香奈ちゃんはともかく・・・何で隠れてるのさ!さっきまでやる気満々だったじゃん!!」 「あんなでかい蜘蛛なんて聞いてないわよ!!」姉は蜘蛛が苦手らしい。 小さいときは平気で虫とか捕まえてたのに、女の子って不思議。 と、そんなこと考えてる場合じゃない。 仕方ない・・・とにかく今は僕が頑張るしかない! 「勇希くんは身を護ることを優先して良いからね、攻撃は私がするから!」 情けないけど、僕の攻撃が効くかはわからないし・・・ 牛鬼の気を引いて鈴華ちゃんが攻撃しやすいようにすることにした。 +TOPに戻る+ |