+Genesis+

●6話●
鈴華ちゃんの攻撃は確実に牛鬼を追い詰めているように見えた。
昔からそうだったけど、やっぱり僕たちとは比べ物にならない強さだ。
それに昔より僕たちの差は大きいだろう。
当然だ。僕たちの居る世界では、普通の学生は戦うために身体を鍛えたりしないしね。
数年の月日が僕たちの差をひらいたんだ。
しかし残念なのは今の僕が役に立たないことだ。
昔はバットでの攻撃も有効だったし、なんとかなる・・・そう思っていたのだが
この相手には僕の攻撃は効きそうに無い。
「やぁああっ!」気合の入った声とともにはなたれた鈴華ちゃんの一撃により
牛鬼は動かなくなった。
「やったの・・・?」後ろで隠れていた姉と香奈ちゃんが近づいてきた。
「うん、もう大丈夫だと思う。一件落着だよ。」
「そう・・・。」
「ごめんね、無理につき合わせちゃって。」
「こっちこそ謝るわ、あんだけ言ってたのに・・・情けなかったわね。」
「気にしないで、私は皆がついてきてくれただけで、とっても助かってるんだから。」
「私は後処理してくから、皆は先に戻ってて良いよ。」
「そう、悪いわね・・・。」姉が何だか調子悪そうだ。
「僕は最後まで付き合うよ、悪いけど香奈ちゃんはお姉ちゃんをよろしく。」
「うん、わかった。」


「ところで、処理ってなにするの?」
「この石を使うの。」といってポケットから緑色に輝く石を取り出した。
「これを妖怪の体内に入れることで内側から封印するの」
「でもその時、妖怪の力が残ってると封印をはじかれちゃうから。」
だからこうして弱らせてからってことか。どっかのゲームみたいだ・・・とか思ったり。
ガタン!
入り口のほうで何か音がして、僕は振り返った。
そこには見覚えのある妖怪が立っていた。
「ぬらり・・・ひょん?」
そう、忘れもしない・・・あの時の・・・。
ぬらりひょんは不気味な笑いをうかべると、一瞬で姿を消した。
と同時に僕の後ろで何か嫌な音がした。・・・そう、何かを引きちぎったような。
振り返ってはいけない、そう頭をよぎったが・・・そういうわけにはいかない・・・。


●7話●
「うわあ゙あ゙ああああああ!!!」
さっきまでそこに立っていた鈴華ちゃん。
今もその足は地を踏みしめている。
・・・けど、違う・・・これは違う・・・
グシャ・・・僕の横のほうで音がした
嫌だ、見たくない、見ちゃいけない
そう思っても身体は音のしたほうへと向いてしまっていた
そこには鈴華ちゃんがいた・・・いや、”鈴華ちゃんの上半身”があった。
「あ゙あ゙あああ・・・」
息ができない・・・何も考えられない・・・。


目が覚めると、部屋の天井が見えた。
「ここ・・・僕の部屋・・・?」
頭が痛い・・・身体もだるい。
何かとても恐ろしい夢を見ていた気がする。思い出せない・・・
「今何時だろ・・・」隣に置いてあったケータイのサブディスプレイを見る。
17:42
「5時42分・・・学校は・・・もう終わってるか・・・」
何もする気が起きなかったので、僕はそのまま天井を眺めていた。


●8話●
同時刻、奥山・水無月家一階
「あのガキに使ったのはこれだ。」
勇希たちの親4人の前に、2人の女性が座っていた。
そう、別世界で勇希たちと出会った人物、春姫と、その仲間で001と呼ばれていた人だ。
「この薬は・・・どういったもんなんだ?」と勇希の父が尋ねる。
「催眠、暗示をかけやすくする・・・ってとこだな。成分は俺もよく知らない。」
「成分知らないって、アンタそんなもん使って―――」
「俺だって!・・・俺だって使いたくは無かったよ。」
当然だ、そんなものを使いたい人間なんてそうはいない。
「見てられなかったんだよ・・・。」
「あの女の身体を必死にくっつけようとしててよ・・・意味も無いのに・・・」
「あのまま放置しておけば、あの少年の精神は崩壊していたでしょう。」
「・・・確かにその通りかもしれんな。」香奈の父が口を開いた。
「戦いを続けてきた俺たちでさえ、目の前で友を失えば平常ではいられない。」
いくら冒険を経験したといっても、勇希は普通の学生だ。そうなってしまってもおかしくない。
「鈴華は牛鬼を封印し、その後急いで戻ったということにしてある。残り2人も同様だ。」
「そう・・・かわいそうだけど、そのほうが良いかもしれないね。」
しばしの沈黙の後、2人の女性は席をたった。
「じゃあそういうことだ、鈴華が死んだことは伝えないほうが―――」
ガタ!
「ちっ、お前ら・・・タイミング悪いな。」
「ちょっと、それどういうことよ?鈴華が・・・死んだって・・・何?」
「牛鬼を倒して、帰ったんじゃないんですか・・・?」


「2人とも今日は早かったのね、香奈ちゃん部活は――」
「誤魔化さないでよ!!」
「・・・。」
「ちっ、そうだよ・・・あいつは死んだんだ。」
「昨日言ったのは全部嘘だ、再度動き始めた牛鬼にやられた。」
「そんな・・・。」
「そのあと、俺たち・・・いや、こいつが牛鬼を倒してあのガキを連れかえったんだ」




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