+Genesis+

第0話
あたし達は1ヶ月前まで、別の世界にいた。と言っても信じる人はいないと思うけどね。
精霊力という力は今でも使える。まぁこの世界じゃ役にはたたないけどね。
でも姉さんの力は便利だ。けど、姉さんは使うことは好まない。
まぁあまり使わないほうが良いってのは、わかるけど。
でも姉さんのことだ、怪我してる猫とか見つけたら使うんだろうな・・・。
・・・実のところこんな力、どうでもいい。
だけど、この世界に戻ってきたあの時から「アイツ」のことを思わなかった日はない。
「アイツ」に会いたい、それが今のあたしの願い。
お互い口には出さないけど、姉さんだってアイツらに会いたいと思ってるだろう。
―あたし達には大切な人がいる―
今はまだ・・・ここにはいないけど。信じる、そして待ち続ける・・・。
「約束破ったら・・・許さないからな。」


第1話「予感」
今日は日曜日。さわやかな朝、いつもと同じ日常が始まる・・・と思っていた。
でも何かが違う気がした。何かは分からない。
空気、雰囲気、たぶんそういったものだ。
「おはよう、武夢ちゃん。今日も行くんでしょ、朝のジョギング。」
おいしそうなトーストの匂いとともに、姉さんのやさしい声が聞こえる。
「うん、行ってくる。」そう答えつつテーブルへ向かう。
姉さんがテーブルにトーストとホットミルクをはこんで来る。
「じゃあこれ、食べて頑張ってきてね。」
トーストを食べ、着替えを済まし、姉さんの笑顔に見送られながら家を出た。
「身体がなまるから」そういって始めたジョギングだが、実際のところ違う。
向こうの世界に行ってる間に、この世界は少し変わった。
だから「アイツらが来ても、迷うんじゃないか」そう思うと
じっとしてられなくて、こうして暇があると、チョロチョロしている訳である。
余計なおせっかいかな、自分でも馬鹿なことやっているというのは分かってる
姉さんだって、きっと本当の理由、気づいてるんだろうな。
それでもあたしはやめない。アイツに会うまでは。


第2話「再開1」
ジョギングをしていると1匹の猫を見つけた。何かこちらにうったえている
ような気がする。「姉さんのがうつったかな・・・。」
自分でもその時なぜ猫を追ったのか、分からなかった。
でもそれは、間違いではなかった。
少し猫と追いかけっこしていると、どこからか声が聞こえてきた。
「腹減った!何か食わせろ!!」「食べてきただろう、我慢しろ!」
聞き覚えのある声。そう、あたしの待ち望んでいた声。
声の聞こえたほうへ走る。胸が高鳴り、口元がゆるむ。
角を曲がったところにある新しく出来た公園、そこに立っている2人の男。
まちがいない、あいつらだ!ついに、やっと、来たんだ!会いに!!
アイツめがけて走る、気づいてふりかえる2人、そしてそこに―――


第3話「再開2」
フライングクロスチョーップ!!!!
「ぐはぁっ」
思い切りアイツめがけて飛び込むあたし。
「なっ?武夢か!?」びっくりして目を丸くしている竜也。
勢いよく突撃したあたしの攻撃を受けた雀路はその場に倒れこむ。
「いってぇ・・・何すんだよっ、武夢!!」
そういって起き上がった雀路につかみかかる。
「馬鹿!遅いじゃんか!!」―ずっと待ってた、会いたかった―
それを言うつもりだったのに、雀路の顔を見るとついこんな言葉がでてしまう。
「これでも早いほうだぜ!?」と、反論する雀路。
「うるさいっ」と、いつものように言ってやろうと思った。
が、うまく言葉が出ない・・・目からは涙が出てしまう。
あたしはそれを隠すように雀路に抱きついた。
「どうしたんだよ、武夢。」少し戸惑っている様子の雀路。
「馬鹿・・・ずっと・・・待ってたんだぞ・・・。」やっとのことで声を出す。
「悪かった・・・でもこれからは、また一緒だ!」
そういって雀路もアタシを抱きしめてくれた。
とても暖かかった、しばらくこのままでいたい──


第4話「再開3」
そう思った瞬間だった。
ぐきゅるるるる――雀路の腹がいきおいよく鳴った。
「すまん・・・もう無理だ・・・。」そういってしゃがみこむ雀路。
ムードぶち壊し・・・そう思いながらも口にはしない。
「じゃあうち来いよ、あたしがご飯つくってやるよ。」
「まじか!?いやっほぅ!!」喜ぶ雀路、見ているあたしも楽しくなる。
「あれ、竜也は?」と雀路。言われてみれば、さっきいた所にいない。
辺りを見回すと、公園のブロック塀の反対側に後ろ頭が見える。
気を使ってくれたのか、それとも見ていられなくなったのか。
あたし達は竜也のほうへ歩く。
「もういいのか?」といつものようにクールに言っているけど。
何だか少し落ち着かない、「そわそわしている」とでも言うのだろうか。
―そっか、こいつも―
「うち行くぞ、あんたも早く姉さんに会いたいだろうしね。」
竜也は何やら言いたそうだったが、さっさと家に向かう事にした。



第5話「また4人で」

「ただいまー。」そう言って部屋に入ると、奥から姉さんが歩いてくる。
「おかえり、武夢ちゃん。今日は早かった―――」
あたしの後ろにいた2人を見て姉さんは固まってしまう。
「よ、久しぶり。」「久しぶりだな、綾虎。」
2人に声をかけられ姉さんは再び動き始める。
「雀路くん!竜也さん!」言いたい事が多すぎて何を話せば良いのか
そんな感じでアタフタしている姉さん、ちょっと可愛い。
その様子を少し見ていたかったが、あたしは竜也を前に引っ張り出す。
「な、なんだ?」焦っている竜也、これはまためずらしい。
向かい合わせになる姉さんと竜也。
「げ、元気そうでなによりだ。」「竜也さんこそ・・・。」
そう言ったきり無言で見つめあう2人。
――長い・・・この空気は何なんだ?
何かきりだそうと、そう考えた瞬間――


第6話「失敗?」
きゅるるるるるる――――また雀路の腹がなる。
「そうだ、雀路に何か食わせようと思ってたんだ」ときりだすあたし。
「じゃあパーティーにしよう!私材料買ってくる!!」
「じゃあ竜也、あんた一緒に行ってこいよ。」と言ってみる。
「オレがか?」「竜也さん達は、今日のパーティーのメインなんだし・・・」
「雀路はあんなだし、あたしは雀路に何か作るからさ」と適当に理由を。
「わかった、材料調達なら荷物が多くなるだろうしな、俺が手伝おう」
「うーん・・・じゃあお願いしようかな。」
そうして2人は外へ出かけていった。作戦成功だ。
2人きりにしてあげたほうが、竜也も話しやすいと思ったわけさ。
「さーて、何作るかなっと――」と動き始めた時に思った。
ん・・・?これって・・・あたしも雀路と2人きりか!?


第7話「2人きり」
今までは特に気にしていなかったが・・・意識すると何だか気まずい。
「と、とにかく何か作ろう・・・」そう言って台所に向かう。
すると雀路もゆっくりと立ち上がり、あたしの後ろをついてきた。
「あとでたくさん食えるだろうから、とりあえず飯と味噌汁でいいか?」
「おう。」とテーブルについて、突っ伏したままの雀路が返事をする。
後ろに雀路がいるという事を無駄に意識してしまうあたし。
「何やってんだか・・・」こんな感じを覚えたことは今まで無かった。
「いてっ」雀路の事を無駄に意識しすぎて、手のほうに集中できてなかった。
少し指先を切ってしまったようだ。それに気づいた雀路がこっちに来る。
「平気か?ちょっと見せてみ。」とあたしの手をとる雀路。
「このくらい唾つけとけば治るぜ。」と言って顔をあたしの手に顔を近づける。
「まさか―――」その瞬間、雀路があたしの指を舐める。
あせってすぐ手を引っ込めるあたし。
「なっ、ば、ばか!自分でできるわ!そんな事!!」
「それもそうだな、わりぃわりぃ。」そう言うとまたテーブルに戻っていく雀路。
本気で焦った、まだ心臓がバクバクいってる、きっと顔も耳まで真っ赤になってるだろう。
「はぁ・・・ほんとに何やってんだか・・・。」


第8話「準備」
何とか完成させた味噌汁と、ご飯を雀路に食べさせていると、姉さんと竜也が帰ってきた。
「ただいま、武夢ちゃん、雀路くん。」2人ともすごい荷物を持っている。
「おかえり姉さん、すごい荷物だね・・・何を買ってきたの?」
「ケーキでしょ、お寿司、フライドチキンも買ったし・・・あと部屋の飾りとか。」
姉さんはこういったことに結構こだわるタイプだが、まさか装飾まで買ってくるとは。
「さぁ、準備準備!はりきっていこーぅ。」
でもこんな楽しそうな姉さんは久しぶりだ。だから特に何も言うまい。
「部屋の飾り付けか、俺に任せな!!」食べ終わった雀路が勢いよく立ち上がる。
「お前・・・飾りつけなんて出来るのか?」と竜也。
「飯を作るのも、歌を歌うのも、飾りつけも、全部大事なのは心なんだぜ!?」
「それに皆でやったら楽しいよ。」と後ろで姉さんも言う。
「ふっ・・・そうか、そうだな。」なにやら納得した様子の竜也。
まぁ、分からなくもないけどね。
そうして4人で部屋の飾り付けを始めた。


第9話「最高のチーム」
しばらくして部屋の飾り付けが終わった。
「こ・・・これは・・・。」部屋を見渡してみると何かすごいことになっている。
一箇所はリボンやら花の飾りやらでファンシーになっている。ここは姉さんか・・・。
そして次、何か無造作に色々くっついてる。その前に雀路が満足そうに立っている。
あたしのところは「普通」である。これといって特に表現するものもない。
竜也のところもまた、シンプルである。
「バランス悪いな・・・。」と思わず口にでる。
「心だよ!心!気にすんなよ!」「そうだよ、武夢ちゃん。」
「良いんじゃないか?オレたちはこれで。」
「結果がどうであれ、4人でやったことに意味がある。違うか?」
「・・・そうだな。」竜也の言うとおりだと思った。
4人で力を合わせる。そうやって今まで戦ってきて、それで今ココにいることができる。
「やっぱ、あたしら最高のチームだな。」
「だね。」「そうだな。」「最高だし、最強だぜ!」
「俺たち4人が力を合わせれば、出来ないことなんて無いぜ!」
さすがに言いすぎかと思われるかもしれないが、今は不思議と雀路の言うとおりだと思えた。


第10話「綾虎と竜也」
パーティもそろそろ終わりが近づいてきた。久々に大騒ぎした気がする。
時計を見ると、もう夜1時だ。姉さんが眠そうである。
無理も無い、姉さんはいつも11時くらいに寝てるからね。
「片付けはあたし達でやっとくからさ、姉さんは先に寝なよ。」
「え・・・でも――」「竜也、姉さんをベッドに連れてって。」
何か言おうとしてたけど、それを遮ってあたしが言う。
こうでもしないと姉さんは無理するから。
「わかった、行こう綾虎。」それをわかっている竜也は姉さんの手を引く。
「ごめんね・・・じゃあ、お願いね。」と言って姉さんは竜也に連れられ奥に。
その後、ちゃんと寝てるか様子を見に行くと、姉さんはベッドに入って横になっていた。
「今日のこと、夢じゃないよね?明日目が覚めても、竜也さんと雀路くんいるよね?」
「あぁ、大丈夫だ。ずっとそばにいる・・・だから今日は、もう寝るんだ。」
「うん。」竜也に手を重ねてもらい、安心した様子の姉さん。
「おやすみ、竜也さん。」といって目を閉じた。
竜也はあたしに気づいてこちらを見た。
「オレも、少しここにいて良いか?」と少し照れ気味の竜也。
「むしろそうしてあげて、姉さんのためにも。片付けは雀路とやるからさ。」
「すまないな。」そういって姉さんのベッドの横の椅子に腰掛けた。


第11話「思い」
「よし、片付けるぞ。雀路、手伝え!」「おう。」と2人で片づけを始めた。
――あたしは姉さんが好きだ。初めて会った時からずっと。
可愛いし、スタイル良いし、頭も良くて、運動も出来る。そのうえ誰にでも優しい。
学校でも男にも女にも人気はあった。もちろん嫉む奴もいたけど。
だから今まで、姉さんに変な男がつかないようにしてきた。
姉さんにはいい人と一緒になってほしいと思っていたから。
でもそれよりも、姉さんに好きな人が出来て、そっちに行っちゃって
あたしが、また1人になるのが怖かった。
姉さんにはずっと好きな人が出来なければ良いなんて考えた時もあった。
でも今は違う。竜也はいい奴だ。
人のために自分の命をかけられる奴なんて、この世界には数少ないだろう。
まぁ、見た目も良いし。それに頭も良い、もちろん運動だってできるだろうし。
仲間思いだし、まさに姉さんにはぴったりの男だと思う。
あいつになら姉さんを任せられる、そう思うのである。
なんて考えている間に、片付けも一通り済んだ。
雀路とあたしは椅子に座って一息つくことにした。


第12話「家族」
「なぁ、武夢。」ふと雀路が話しかけてきた。
「ん、なんだ?」コップに入れた水を口にふくむ。
「俺たちはいつ家族になれるんだ?」
いきなりの質問に思わずふくんでいた水をふきだしそうになる。
「な、なんだよ急に・・・そんなこと。」
「だって武夢が言ったじゃん、姉は無理でも家族にはなれるって。」
そういえばいった気がする・・・思い出しただけでも恥ずかしくなる台詞・・・。
なんであんなこと言ってしまったんだろうか・・・。
もちろん、コイツのことは嫌いじゃない、てか、たぶん「好き」なんだろう。
だが、まだ早い。確かに結婚できる年ではある。が、さすがに早すぎる。
「もう少ししたら・・・かな。」と曖昧に答えておく。
「そか、まぁ良いんだ。一緒にいるなら、家族みたいなもんだしな。」
「とりあえず、この世界に慣れろ。話はそれからだな」ってことで・・・。
この世界で、この生活を続けるなら、雀路や竜也にも金を稼いでもらわないとな・・・。
「うん、やっぱそれからだ。」1人で納得するあたし。
「うっし、気合入れて慣れるぞ!」
「慣れって、気合いるのか?」
―――しらね。」


最終話
雀路たちがこっちの世界にきてから結構すぎた。
今となっては、雀路と竜也がここにいるのが普通であり
そんな普通の生活がすごく楽しい。
これ以上のものは何もいらない、そんな感じだ。
昔、姉さんと会う前まではこんなに嬉しいことが自分に起こるなんて
考え付かなかった。
怒鳴られるのではないか、暴力を振るわれるのではないか
そんなことに怯えながら生活している地獄のような日々。
それから比べれば、普通に生活できることが幸せだというのに
やさしくてかわいい最高の姉さんがいる。
多少無愛想だけど、いい兄貴分の竜也がいる。
馬鹿だけどかっこいい雀路がいる。
こんな幸せなことは無いだろう。
そろそろ良い頃かもしれない。今なら言える、なんとなくそう思った。
「なぁ、雀路。家族になろうか?」


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